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eau de vie撮影レポート
■Vol.20■ 10月25日「バスと電車の夜」

「あと○日だな・・・」というため息とも喜びともつかないささやきが、ベッドの上のそれのごとくスタッフの間でこっそり交わされはじめてきた。ちなみに今日は「4日だよな」ということになる。それならばいっそみんなで寝よう。20畳ぐらいの大きなベッドで。

朝から例のレインツリーの下で、若きあやこがうっとりとほほ笑み、少年順三郎の指のツメをパチンパチンと切ってゆく。ツメは風で飛びレインツリーの滴に溶けた。
あやこのやわらかい腹部からつづく羽毛ぶとんのような太ももは、順三郎の頭部のかたむきをやさしく支え、順三郎の小枝の指はあたたかなあやこの葉っぱに覆われていた。少年と母の愛情は、きっと木の下でああやって育っていったのだろう。
この光景を一番うらやましく思っていたのは他ならぬ阿部助監督であり、実際このシークエンスは彼の幼少時代の体験から生まれたものであるのです。本当に眠くなったらしい。ということは、ここ2〜3日彼は24時間ずっと切られっぱなしってことか。

「タツタ酒店」を経由して、いよいよ幻想の中心部へ・・・。
電車の中で順三郎の中の女たちが波のごとく寄せて、そしてろうそくの火のようにそっと消えてゆく・・・。
女たちが出てくれば出てくるだけ順三郎の外側はまどろみ、内側は覚醒してゆくのだ。
レールの銀色を往復する電車は、いつしかレールを越え順三郎の小宇宙へたどりつく。今夜は主に電車の中の幻想シーン。古い内装がさらに異空間と、こもった空気を醸しだします。そのままでもかなり妖しいのに。そしてさらに外から見ていると本当こわい。
監督や上野さんとかその他乗り込んでいた人は知らないだろうけど、終点のレールのはしギリギリまで寄せられた電車の中は特別な光で照らされていて、その不思議な箱のようなものなのでした。 その中に役者さんと撮る側の人がさわさわと動いている様子といったら。もちろん本番前なので、緊張感もしっかり窓ガラス越しに伝わってきて、そんな空気を混濁させながらコトリと音をたてて、ゆっくりと走り去ってゆく電車なのでした。
その夜は信じられないくらい凍てつく寒さ。1.5℃。震えながら遠くなってゆく電車。
お芝居をそっくりそのまま乗せた電車が遠ざかっていくのを見てると、さらにものさびしくなり、また震えた。 さあバスに入ろう。もしくはこのまま星を見上げていようか・・・。
だって寒さのせいで、いっそう星明かりが鋭く降ってくるのだから。

バスの中はあたたかだった。 それは待機場所というより避難場所という方が近く、皆んなは半分待ち、半分休んだ。 シートに深く座ると現場にいるのにかかわらず、なんていうか我に返ったというような安らぎさえも感じるのだ。 電車は今ごろどの辺を走っているんだろう。
恋人を空港で見送った女がヨーロッパへの空を思い「今、どこの上を飛んでいるのかしら」と視線を宙におよがせるのと同じだな・・・。
バスの中の明かりは明るすぎず暗すぎず、各シートの間から顔は見えないが誰かの話し声とか沈黙とかがゆっくりとたちのぼって良かった。センチメンタルというコトバは使い古されているが、あえてそれを使わせてもらおう。
もう午前0時。
そうか・・・ シノハラは電車で、私たちはアングロプロスか・・・。

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