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eau de vie撮影レポート
■Vol.16■ 10月21日「雨の木(レインツリー)を聴く順三郎」

今日も順三郎とあやこの家。
うっとりするような海をのぞむバルコニーで、あやこは順三郎の首もとから別の女の匂いをかぎわけます。 あやこの横顔が海の光に溶けていく・・・。
先日書いたように、緊張感が漂う家に、さらに悲愴の色が降りてきた。あやこと順三郎の別れの予感が作り出した、甘く、そしてぞっとする水の色だ。

そんな家をせわしなく、主婦のように行ったりきたりしているのは、照明助手の荻野くんだ。
前から思っていたけど、彼の後ろ姿はまぎれもなくオカアサンだ。いろんな道具を彼は腰からぶら下げているのだけど、その肩からかけている2本のベルトが背中で×(バツ)印になっていて、まるでエプロンみたいだ。という訳でオギノ母さんは今日も忙しい。 彼はグラッパが好きだと言っていた。よし、「eau de vie」好きってコトか。

そうこうしているうちに、昨日のうちから穴が掘られ下にシートをひかれていた池に、着々と水がたまっていく。どんどん水かさが増す。まるで、あやこと順三郎の悲しみのように。
土の上だから水は濁った色になっている。上にたくさんのあぶくや草っぱが、くるくる浮いている。くるくる、くるくる、それらはぶつかり別れ、行き場もないまま黒い水面をさまよう・・・。 きたないけどきれいだ。すべて浮くものは何かの意味をなしてしる。
アントニオーニの「太陽はひとりぼっち」の中のモニカ・ヴィッティとアラン・ドロンが待ち合わせをしていた角の工事現場。彼らのそばにあったドラム缶か何かの中にあった、偶然の水たまりを思い出した。あそこに浮かんでいた木片は、流れてくる水のもと、不安気にくるくるゆれていたのだ。
池に水ため終了。あやこと順三郎の庭は完成した。生まれたての池のほとりには、美しい針葉樹が立てられている。 私が無理に美術・小沢さんに頼んだ、あやこの雨の木(レインツリー)がしっとりと影を落としています。 小沢さんは山に分け入って、一番ふさわしい木を切ってきてくれた。大仕事だ。 そして無事、レインツリーはそろそろ滴を垂らし始める。

月が屋根の上に出ている。理想的な位置だ。 玄関から向かって左側に、例の池と木。そんな月夜なのに、順三郎が出てくるとなぜか木が泣いている。しくしく雨のように滴をおとし、池に波紋をたてる。それは光を帯び、筋になって落ちてゆく。
すごい・・・本当にレインツリーだ・・・。 本の中の木が今、ちゃんと泣いている・・・。
きっと本物の雨の木はかなり大きいが、あやこのレインツリーは小さくたたずむのがいい。
この大きさはあやこ一人分の蒸留器だ。あやこの悲しみを吸い上げて、彼女自身をなぐさめる。 順三郎は聴かなければいけない。その水音を。

その日の月は三日月。だんだん海に沈んでゆくものだった。
出始めの頃は真っ白だった月が、水平線に近づき、時間がたつにつれて琥珀色になってきた!
これって・・・「eau de vie 」だ。 月は短時間で熟成するのか。
とてもきれいなお酒の色だ。 月=女。 女も早く熟成しなくちゃ・・・ねえ、火露見ちゃん。

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