■Vol.8■ 10月13日「アスパラにして良かった。」
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今日も「ラ・テール」。 客席のシーンです。
実はこの井ノ上シェフの店は客席部、厨房部、バックヤード部と3つの場所に分かれた、合体ロボのようなものなのです。松重さんの体にしてもそんな印象なので、きっと良いのでしょう。彼の胸とか腹の辺りに収納庫があり、そこに小さな火露見がしまってある・・・。
客席部はフランクロイドライトの洋風建築の個人住宅を借りての撮影。
長い廊下の先の六角形のカタチの部屋は、まさしく蝶の住む家だと誰かが言った。六角形ゆえ六時間。これが篠原組に与えられた制限時間なのです。 なぜこの時間? 理由を話すと泣きそうになるのでやめましょう。ともかくも、ここまで至るまでやりきれない事ばかりで、砂浜で裸で死にたくなる位のタナトスを味わった、というのは言い過ぎですが、ひとつのシーンを成立させるためには、いろんな困難があるのです。目に見えない海中の氷山。
さて、井ノ上シェフは暴力的要素とはうらはらな、実に繊細で美しい料理を作る・・・ という設定であります。 そして私はそんな料理あるのか? という、かなり自分勝手なもの、そして見た目いやらしさがでる、そんな皿を書いてしまったので、本当に作るのかな? と他人事のように思ってたのです。
しかし、それを本当にやってくれたのはうれしかった。しかも私の想像以上に、さらにいやらしいすごいやつを。
お世話になったのは、小田千早さんという料理人。そしてフードコーディネーターの市場ゆりこさんという美しい女性2人です。彼女らの手さばき、センスによって
“北海道産2色のアスパラガスのソテー”
緑と白の重ねたアスパラに、処女の性器のようにしなやかにちぢんだあわびを添えて、人間からほとばしる白い体液のようなソースをかけた一品。
“スルメイカのマリネ しょうがのコンフィ添え”
スルメイカの頭の先は立ち上がった男の先のイメージ。 他のイカの肉片を突き抜けて、それは天を向いている力強さ。その周りにとどめのように松茸のグリエが陰毛のような黒い焼き筋をつけてちらばる。
...............という料理が「ラ・テール」の、とある昼下がりに順三郎とあやこの目の前におごそかに置かれる・・・。
いつものようにつくった料理が、順三郎とあやこが一緒にする最後のゴハンになろうとは、つゆ知らずの井ノ上です。
撮影終了間際、何皿もつくってもらった内のアスパラガスのやつを一つ味見させてもらいました。 おいしい。 井ノ上の味だ。 アスパラと卵の黄身の味がするソースの出会い。ミドリとシロ、どっちがいい?
どっちもおいしいです。 アスパラですよ。 アスパラにして良かった。
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