3日目。
今日は篠原監督が「しんゆり映画祭」出席のため、一時帰京。本日は撮休。
そこで昨夜撮った、それはそれは美しいシークエンスを回想しようと思います。
この場面は、フィニステールというお店を終わった順三郎とあやこが、夜更けの道をそぞろ歩き、ふとタクシーを停め、そのまま街灯の光の中を流れてゆくというものです。
古い灰色の建物と月の親戚のごとく淡く深く輝く灯に、やさしく見守られた順三郎とあやこ。
心の水底に甘く深い愛情を持ち合わせた恋人同士が寄り添って、水に濡れている墨色の道路を歩く姿といったら・・・。
行く先には、光の帯が電車のレールを飛び越えて、坂となって立ちのぼり、夜空に消えてゆくのです。 まるで河のよう。 その水面はまぼろしの光を集めて、かなしく静まって音もなく。
順三郎は男の子だからすらすら歩けるのでしょうが、見えないものをいくつか背負った女性はそういう訳にはいかないのです。
鰐淵晴子さんのあやこがしっとりと水の上を歩んでいる様子はハイヒールのコツコツした音がするのにかかわらず、そう、まるで人魚のようなのでした。
うろこをキラキラ反射させて、髪の毛を水の中に漂わせ、ゆっくりと泳いでゆく女の性をもった生き物。 彼女は街角に波をゆるやかに立たせ、その余韻はさらに街を彩るのです。
普段であるならば絶対あり得ない街角。 夢のようなイメージを現実によみがえらせるという事をしていました。
照明の上妻さんという人は、声帯を使っていないんじゃないか、と感じるくらいひゅうひゅう言葉を発するかわいい人です。 彼の統括のもと、坂のずっと上からふもと、道端、ありとあらゆる所から光が放射され、水に濡らされたコンクリートを温めていました。 明かりはたなびき坂を下り、地面を走り、無限に広がってゆく。
全ての撮影が終わったのは午前1時。それまで照明の位置についていてくれた方々、交通整理をしてくれた方々、ふんわり水をまいてくれた消防員のおじさんたち、早くからスタンバイしてくれたタクシーの運転手の方。
その他、その現場にいて手伝ってくれた全ての方々に、改めてお礼をいいます。
私はそんな大がかりなことを見たことがなかったので、その後、家に帰ってもなかなか興奮して寝つけませんでした。
もう一度あの光景を、いつか夢の中で見たいと思いました。
そして中央で上妻さんがひゅうひゅう言って、自らのライティングで呼び寄せたイカを、火露見のようにくわえていたら・・・ だとすると悪夢になっちゃうか。
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